「教科書会社による歴史教科書の訂正申請をめぐる報道の違い~朝日新聞と産経新聞」(2021年9月9日「朝日新聞」、同「産経新聞」、2021年9月20日「信濃毎日新聞【社説】」)

9月9日新聞各社は、教科書会社から出された訂正申請を文科省が「承認した」ことを一斉に報じた。いわゆる教科書攻撃といわれる歴史修正主義者らによる歴史改ざん強制攻撃、あるいは歴史修正主義にもとづく教科書記述への書き換え要求運動といっていい動きによる一定の「成果」といえるだろう。「『従軍慰安婦』という用語について『誤解を招く恐れがある』などとする答弁書を政府が閣議決定したことを受け」と前置いて、3社から訂正申請がなされたと報じている。また「『強制連行』と表現することについても、政府が『適切でない』との答弁書を閣議決定」したことを受けて「5社が、『徴用』『動員』~の記述を訂正した」という事実も報じている。

朝日新聞とは一味違う報道をしているのが産経新聞である。「加藤官房長官は、教科書会社が文部科学省に『従軍』との記述を削除するなどの訂正申請を行い、承認されたことを評価した。『教科書の記述が改善されたことは、子供が適切な教育を受ける意味でも大変重要なことだ』と述べた」また「新たにまとめた政府の統一的見解を踏まえて教科書発行者がしっかりと議論いただいた上で、対応された結果だ」と丁寧に紹介している。

それに続いて産経新聞は次のような自説を展開している。「教科書検定基準では『閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解が存在する場合には、それらに基づいた記述』が求められている。教科書の記述が政府見解に基づくものとなっていない場合には、発行者が訂正申請を行う必要がある」と。

朝日新聞の記述は、訂正申請に至る事実を確実に報道することで読者に何があったのか、何が問題なのかを考えさせるものとなっている。いっぽう産経新聞のそれは、教科書記述にかんする政府見解を金科玉条のごとく扱い、それに準拠しているかどうかを一切の価値基準として書かれている。それは「発行者が訂正申請を行う必要がある」という主張が間違った理解・認識であることを除いても、筆者には気になる記事である。

訂正申請をしなかった教科書会社が2社あったことがその後判明した。つまり「従軍慰安婦」と「強制連行」はそのまま教科書に載っているということだ。この会社の狙いや腹の括り方はさておき、文部科学省がどう「動くか」注視しておく必要がある。

「歴史認識に関わって何が適切な用語化を政府が決め、教科書を書き換えさせる―。教育の国家統制につながるあからさまな政治介入と言うほかない」。これは9月20日信濃毎日新聞の社説の書き出しの一文である。